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スタッフブログ

神試合!世界フィギュアスケート選手権大会2019マニアック覚書

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近畿ブロック全日本選手権に続く、アーツのスケオタライター田中(と)による2018-19シーズンのフィギュアスケート観戦記、第3弾です!

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スケート好きの方は現地やTV観戦で堪能されよくご存じかと思いますが、ガッツポーズ続出のハイレベルな神試合でしたね…!

私はアーツの皆さんのご協力でなんとか仕事を前倒し、開幕前日にあたる19日の公式練習から24日のエキシビションまで、現地で通してウォッチする幸運に恵まれました。
(今回もまたチケット難民続出で皆さん大変でしたよね、当日まで探されていたスケートファンの方は本当にお疲れさまでした…!)

あまりに盛りだくさんで書ききれないため、かいつまんで印象に残ったことだけ覚書のようにしたためることにします。タイトルにもありますが、コーチ愛ほとばしるマニアック目線で失礼いたします、とまずお断りしておきますね(笑)。

鬼神モードから一転、笑顔も。コーチ観察も楽しい公式練習

遠足前夜の小学生よろしくなかなか寝付けず、朝5時にむくりと起床した19日。突然の雨のなかキャリーケースを引きずり保安検査締切数分前に空港に駆け込むという綱渡りの末、10時半には会場であるさいたまスーパーアリーナのメインリンクに到着。無事、11時にスタートした男子シングル公式練習から見ることができました。

男子シングル選手にとっては競技開始の2日前でしたが、シーズンを締めくくる大一番の直前とあって、選手たちの気迫がヒシヒシと伝わってきます。

なかでも注目は、やはり秋以来の復帰戦となった羽生結弦選手。登場すると客席からはこの日一番の大歓声! 
身体が温まってくると軸の細いキレッキレの超高速回転で4回転ジャンプを着氷しまくり、「ここにバッチリ合わせてきてるな…!」と強く感じさせる仕上がり具合でした。
後日出したコメントによると実際には右足の怪我が完治していなかったとのこと! ですが、この日はそんなことはつゆほども感じさせない、超人的なジャンプを跳びまくっていました。

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この何年か、ショーでは滑りを観ていたものの、日本開催の大会では怪我によるキャンセル続きでなかなか生の羽生選手を見られずにいた私。久しぶりに「競技モードになった鬼神・羽生結弦がここにいる…!」と圧倒されつつ、ひたすら客席からウォッチ。

少しでも触れるとポキリと折れて血を流しながら壊れてしまうのではないかと思うほど極細の、圧倒的に美しいジャンプの軸。だからこそいろいろなものを引き寄せてしまう、キケンな美しさとでもいえばいいでしょうか……。
あまりに研ぎ済まされていて、鋭利。神々しいというか、魔的な香りすら漂ってきそうな4回転ジャンプ。彼が飛ぶたびに息をのんでしまいました。

そして、全員順番で回ってくる曲かけ練習が終わったころだったでしょうか。
だいたい同じレベルの選手たちが同じグループで練習する場合、なんとなく練習の流れというものがあるようで。みんな一斉にスピンやステップ、ジャンプの練習を開始することが多いように感じます。
この日もそうで、羽生選手がイーグルを滑りだしたころ、ラトビアのデニス・ヴァシリエフス選手も超超!ディープエッジのスプレッドイーグルをすぐ横でスタート。これで立っていられるの!?というほど後ろに傾きながらの見事なイーグルに、客席からは「おおーっ」という声が上がりました。

たまたまタイミングが重なっただけで、デニスくんに他の選手と張り合うつもりは皆無だったと思うのです。ただ、そこは「負けは死に等しい」と口に出すほどの負けず嫌い神・羽生選手。
デニスくんの足元の角度を見て驚いたような表情を浮かべて悔しげに笑っておられました。きっと、もっとイーグル練習しよう、と思ったことでしょう。素敵なものを見られた!(笑)

フリー当日朝の公式練習でもさらに気合いが入っていた羽生選手ですが、queenの楽曲で滑るマッテオ・リッツォ選手の曲かけ練習で「Don’t Stop me now」がかかると口ずさんでみたり。時折ふとリラックスした素顔も覗き、そんな瞬間だけは鬼神から普通の青年に戻ったかのようで微笑ましかったですね。

さらに、その次のグループで続けて滑ったネイサン・チェン選手も圧巻でした。彼も練習時から絶好調! 名門イェール大学進学のためホームリンクのカリフォルニアから単身東海岸にわたって一人で練習していた時期が長くあったそうですが、それでこんなに調子を維持できるものなんですね…!
公式練習を続けて観ていると、羽生選手とネイサンとで4回転の持ち味、魅力が全く違うことを改めて実感しました。

羽生選手が研ぎ澄まされた鋭利な刀、宇宙的なものを感じさせる金属質のジャンプだとしたら、ネイサンはジ・アース。
母なる大地・地球に根を下ろした、しなやかで柔らかく強い巨木の枝とでもいうのでしょうか。もちろん力強いのだけれど、それ以上にしなやかなんですよね。
羽生選手とどちらも超人であることは間違いないのですが、宇宙的というよりは地球代表のスーパーヒーロー。そんな違いを感じ取れたのもまた面白かったです。

念のため書いておきますが、どちらのジャンプも大好きです! ネイサンのフリーレッグの美しさもたまりません。さらに言うと私は宇野昌磨選手の音の拾い方、リズムにバシっとハマった身体表現もたまらなく好き。無良崇人さんやハンヤン(中国選手)のトリプルアクセルも最高ですし、ボーヤンのルッツも圧巻。トップ選手はそれぞれに魅惑的な個性がありますよね…!

宇野選手はこの世界フィギュアでは足の調子が万全ではなかったようで、本当に悔しそうな表情が印象に残りました。が、彼の「天国への階段」は今シーズン、私的ベストの男子ショートプログラムです。国別対抗戦では最高の演技を見られますように!

―――話を19日の公式練習に戻します(笑)。

その日は男子公式練習を全グループ見たあと、ペアのトップカップルたちと女子前半を観たのですが、女子シングルの練習も個人的に、とっても興味深いものでした。

女子で印象に残ったのは「かおちゃん」こと坂本花織選手。今シーズンは表現がぐっと良くなっていて、全日本の後もTVを通して滑りを見るたびに足元も振りもブラッシュアップされていることに驚いたスケーターです。

今年のショートでは今までの溌溂としたイメージとはちょっと違う、女性らしい雰囲気の衣装を身につけて柔らかい身体表現に挑戦していましたが、赤のTシャツに黒スパッツというシンプルな練習着でショートプログラムを滑る姿を観た時、初めてちゃんと分かった気がしたんです。「かおちゃんが、このプログラムで何を表現しようとしているのか」ということを。

何度もプログラムを見て音楽を耳にし、英語の歌詞も聞き取れるようになった影響も否めませんが……。
何より、衣装という飾りをそぎ落として純化されたプログラムの本質が、今季磨き上げられた表現力によってダイレクトに伝わってきたのではないかなと。
翼を授かって羽ばたき、最後には天上へと舞い上がっていく。そんな世界観を自然と体現できるスケーターになっていたことに、感動を覚えました。

ショート本番でも素晴らしい演技でしたよね! フリーではひとつのジャンプの抜けで表彰台乗りを逃す惜しい結果となりましたが、今シーズンの彼女は本当に素晴らしく成長したのではないでしょうか。来シーズンが楽しみでなりません。

さらに、イケメンコーチウォッチングもライフワークとしている私にとってたまらなかったのが、ステファン・ランビエルコーチと田村岳斗コーチの男前コンビ揃い踏み。
19日の公式練習では日本女子陣と一緒にステファンに師事する女子フィンランド選手も滑っていたので、二人が揃ってリンクサイドに立ち、選手を指導する姿が見られたわけです。

二人とも現役選手の頃から応援してきたスケーターで、選手引退後もショーで滑りながら、コーチとして活躍する姿を観られるのはとても嬉しいこと! 

コーチはただただ技術を教えるだけではなく、選手のメンタルコントロールをサポートしつつ的確な助言をし、競技直前に必要があれば手直しや変更を施すといった判断力やマネジメント力も必要。
岳斗先生は濱田コーチの弟子としてそのあたりも随分経験を積んでこられたと思いますが、ステファンはまだ新米コーチということもあり、どう指導しているのか興味津々でした。特に彼はアーティスト肌のスケーターなので、選手に必要なエッセンスをどう言語化して伝えるのか。その片鱗を公式練習で目の当たりにできたのは貴重な体験でした!

詳細は省きますが……ジャンプの精度を上げたい門下生に対して、跳ぶ瞬間にグッと力の入る選手の表情をリンクサイドで再現しつつ「こう動いて、こんな顔で跳んで!」「違う、この顔!」(注:表情から意訳しています)と仕草で指導している様子が、ああ、ステファンらしいな…と。
顔のニュアンスでジャンプ指導を受けているぺルトネン選手も思わず吹き出してしまってました。かわいい(コーチも選手も)。

ステファンはまだコーチ歴が浅いこともあって、大会中も時折「こんな時は選手にどう声をかけてあげればいいんだろう…」と迷うような顔を見せることもありましたよね(と、私は勝手にウォッチしながら感じました)。
でも、どんどんコーチとしての風格が増してきたように思います! スーツも似合うイケオジになってきた!!

この冬は大きなショーでパフォーマンスしながら一気に増えた弟子を指導していたので相当大変だったと思いますが、これから彼がコーチとしてもどう進化し成長していくのか、そのあたりも楽しみにしています!

――――公式練習の感想を書いただけでこの長さ……毎度毎度ロングなブログですみません。
(そういえば今回ショートサイドの席ばっかりだったので、アイスダンスだけでもロングサイドから見たかったです…!って関係ない!)

カザフスタンに想いをはせて。デニス・テン選手メモリアルに涙

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ワールドの会場ロビーでは、世界各地を巡回しているカザフスタンの名スケーター、故デニス・テン選手の写真を展示するブースも。

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昨年の7月、暴漢に襲われ出血多量で命を落とすという、あまりに突然の最期を迎えてしまったテンくん。
彼は一流のスケーターで最高の表現者であるだけでなく、スケートファンから「カザフスタンの皇太子みたい!」と言われるほど気品のある人格者でもあったので、これからどんな道に進んでいってくれるのか、個人的に楽しみにしていた青年のひとりでした。

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ブースではテンくんの映像を見られるコーナーもあったのですが、彼の動く姿をみると泣きそうになってしまい、とても最後まで見られませんでした……。ごめん、テンくん。

彼は写真撮影にもそのアーティスティックな感性を発揮し、とても才能あふれる写真を撮っていました。どの写真も素敵で、被写体のスケーターの表情からも、彼が慕われていたことがよく分かります。
カザフスタンにとって、スケート界にとって、あまりにも大きな損失だということを改めて感じました。

今回、女子シングルでカザフスタン代表のエリザヴェート・トゥルシンバエワ選手がシニア女子初の4回転ジャンプを決めて表彰台に乗る快挙を達成。見事でしたよね!
きっとテンくんも喜んでるに違いない、と思うと、余計に感慨深いシーンでした。

カップル競技最高!ふたりの絆とシンクロ率にシビレます

世界選手権だからこそ味わえたなーと思うのが、アイスダンスやペアといったカップル競技を生観戦する楽しさ。
カップル競技、とりわけアイスダンスは海外では人気が高い種目なのですが、日本では地上波でほとんど放送される機会がありませんよね……。実際に観たらハマる方、絶対多いと思うのです!

私は2007年、東京開催の世界選手権でアイスダンスの虜になりました! 
この時、特に印象に残ったのがイタリアのアンナ・カッペリーニ&ルカ・ラノッテ組。まだシニア1年目の初々しい、でも当時からチャーミングで目を引くカップルでした。
オリジナルダンス(現リズムダンス)でミスがあり、演技直後にアンナちゃんが氷上で泣き出してしまったんですよね……。そこから巻き返し、次のフリーダンスでは会心の演技! リンクの上で嬉し泣きするアンナちゃん、熱く抱擁するふたりの姿に、アイスダンスってなんて燃えて萌えるスポーツなんだろう!と。

カペラノ組はその7年後、2014年にさいたまで開催された世界選手権で見事優勝! 
長く見ているとこうしたドラマにもたくさん立ち会えて、ますます深み(スケオタ沼)にハマってしまいますよね。

今回もカップル競技、本当に見ごたえありました。アイスダンスはもちろんのこと、ペアも素敵でしたよ…! 
生で見るとカップルごとの個性の違いがよく分かりますね。この大会では、ペアスピンの最中に、寄り添うポーズのバリエーションで愛おしさを表現していたカナダペアにハッとさせられました。

ペアもダイナミックでアクロバティックなだけではないんです。本当に息の合った、ソウルメイトともいうべきふたりの一心同体の演技、ふたりだからこそ出せる表情。ロマンティックだったり濃密だったり、切なげだったり、この上なく楽しげだったり、爽やかだったり。それぞれの絆と個性を目の当たりにできるのは、生観戦ならでは!

ペアスピンやアイスダンスのツイズルでも、100%に限りなく近いシンクロ率の滑りに心奪われてしまいます。願わくば、今後トップ3組だけでも、地上波で放送される機会が増えますように…!!

 

シンクロ率といえば、田中刑事選手のフリー演技時に「客席の日本人の99.5%は手拍子してるんじゃない!?いま、見渡す限り全員手を叩いてるよ…!」なんてこともありました。羽生選手のフリー演技後に隣の席の中国人ガールが嗚咽していてワールドワイドな結弦人気を実感…!とか、いたるところで客席の一体感や盛り上がりも感じられましたね! 
アドレナリンが出まくって、高揚感がいまだに収まりきっていません(笑)。ああ凄かった。

他にも他にも、中国ペアのシビれずにはいられない劇的な盛り上げっぷりとか、アイスダンス王者パパダキス&シゼロン組のあまりに美しい滑りとか、エンターティナーっぷりが素敵すぎたメキシコ新星男子とか、ヤグディンの解説と場内レポート面白すぎるとか、メドベージェワの見事な脱皮復活劇とか、マライア・ベルの「To Love You More」はヴォーカル入りショートプログラムの最高峰じゃない!?とか、ネイサンの衣装はマレーバクなのかペンギンなのか?フリーの衣装はレントゲン写真のようだけど演技がかっこいいから許せてしまう!だとか……。書き出したらキリがありません。

感想を書いていくとそれこそ宇宙的な壮大なブログになってしまうため、この辺で無理やりおひらきとさせていただきます! 
細かいことを言えば、大会の運営にうーん…と思う場面も時にあったり、周りの見えてない特定の国・選手だけのファンによる残念な言動や、選手を振り回す連盟の大人たちに閉口した出来事もあったりはしましたが。

一言でいってしまうと、本当に熱かった。フィギュアスケートというスポーツに出会えたこの人生に心から感謝!

スケートファンのみなさん、国別も張り切って応援しましょう!

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昌磨くん国別ガンバ!!みんな神演技になりますように!!!