みなさんは、一人でメイド喫茶に行ったことがありますか?
僕は、ありまぁす!(O保方さんふうに)
マーケ部門・新垣です。こんにちは。
自分が所属するUXライティングチームの「UX」とは
「ユーザーエクスペリエンス」を略したもの。
製品やサービスなどの利用で得られる「ユーザー体験」を意味します。
どんなモノ・コトでも「体験」にまさるものはありません。
そう考えると、いまから16年前の「ひとりメイド喫茶」も
意義ある体験だったように思います。
* * * * *
2005年10月4日(火)。大阪・日本橋でんでんタウン。
ぼくは、このあたりで人気のメイド喫茶「Cafe DOLL(カフェドール)」に向かっていた。
目的は「ツインテールのメイドさんにツインテールを手渡す」というものだった。
※前者は女性の髪型、後者はウルトラ怪獣のこと
勤めていたコピーライターの事務所を会社都合で退職し、病んでいたのだろう。
世界中の誰にも、利便性もプラスアルファの価値も提供しない、意味不明のミッションだった。
午後3時過ぎ、「カフェドール」に到着。
全面ガラス張りのドアから店内が見える。
カバンの中には、海老が逆立ちしたような怪獣フィギュア。
親が知ったらショックで冥途に旅立つかもしれない。
意を決して歩を進めると──。
「お帰りなさいませ、ご主人さま♪」
2人の少女が笑顔で近づいて来た。TVで見たのと同じコスプレ。
そして、お客様の信頼を得るために最善を尽くしている様子。
「ご主人さま」いう人称代名詞は、ツボの中からジャジャジャジャーン!と
呼ばれて飛び出る半裸の大男からしか聞いたことがない。
メイドがクシャミをしたら、どっちも「ご主人さま」か。
さて、初対面のメイドさんに「コレつまらないモノですけど♡」と怪獣フィギュアを手渡すためには距離を縮めておく必要がある。
そこで、
「久しぶりに海外から帰って来たビジネスマンがメイド喫茶と知らずにやって来た」
という三文芝居を打つことにした。
この設定なら、メイドさんを質問攻めにして話を長引かせられる。
幸いこの日は某企業で最終面接があったのでスーツ姿だった。
経歴詐称っぽいが、ギリギリセーフじゃなかろうか。
キョロキョロしながら(半分は演技)、2人掛けのテーブルにおずおずと座る。
メイドさんの一人が近寄って来て、無職男の前にひざまずいた。
メイド「ご注文がお決まりになりましたら、そちらのベルをお鳴らしください」
大さん「あ、えーと……。チキンオムライスをください。あと食後にアイスコーヒーを」
メイド「承知いたしましたっ♪(ニコッ)」
(心の声)「本番スタート!」
大さん「あのー。どうして皆さんそんなカッコなんですか? ご主人さまって?」
メイド「(虚をつかれたように)えっ!?」
大さん「実は僕、海外から帰って来たばかりなんです。で、友人から、面白い喫茶店があるので行ってみろと言われて、地図を見ながら来ました。フツーの喫茶店じゃないんですか?」
説明しながら、メイドさんにケータイのメール受信画面を見せる。
そこには、「喫茶店なんやけど、店員さんが一風変わってて面白いよ。一度行ってみそ~」という白々しい文章が「カフェドール」の住所とともに書かれていた。
(もちろん、事前に用意していた自作自演メール)
メイド「あぁ、そうなんですか! 当店はメイド喫茶と申しまして、女性店員がメイド服を着て接客しています。去年、東京からブームが起こって、今年に入ってから大阪にもたくさんオープンしてるんです。『電車男』っていうドラマの影響で、お客さまも大勢いらっしゃるようになりました。当店はマスコミで取り上げられたこともあるんですよ」
何もかも知っている情報だったが、「ほぉ」「へぇ」「ワンダホ~!」などとルー大柴ふうに相槌を入れ、「帰国直後のビジネスマン」を全身全霊で演じてみせた。
大さん「なるほど。プライスも手ごろなので安心しました」
メイド「メイド喫茶といっても、メイド服以外は普通の喫茶店と変わりませんよ。なのでご安心ください、ご主人さまっ(笑)」
メイド本人がそれを言ったらミもフタもなかろうと軽い衝撃を受ける。
そして、チキンオムライスを待つあいだに、もっと衝撃的な事実が発覚した。
ツインテールのメイドさん、一人もおらへんやん。
ウルトラ怪獣ツインテールのフィギュア、どないしよう……。
~ 後編へつづく ~
[次回予告]