30数年前、デザイン学校を卒業した私は、
中堅の印刷会社に就職しました。
まだ、ゆとりのある時代だったことも有り、
新卒の研修期間も3ヶ月に及ぶ長いものでした。
工務課~用紙課~製版課~刷版課~印刷課~製本課
と、まずは製造部の各部署を1週間ごとに現場に入っての研修です。
一番辛かったのが、
印刷課での紙捌き研修です。
菊全判(939㎜×636㎜)の用紙を、お腹で支えながら両手で捌きます。
印刷機での給紙がスムーズに進むように1枚1枚の用紙の間に、
空気を挟み込む作業です。
この様に、小さなサイズなら問題ありませんが、
菊全判(939㎜×636㎜)程のサイズになると、それはもう、大変な作業です。
重いし、皺を付けるわけにはいかないし、血だらけになるし、、、
紙は、刃物並みに皮膚を切り裂きます。
1週間が過ぎる頃には、
傷だらけでした。
今のように、
エアージョガー(紙揃え機)があれば、
しなくても良い苦労でした。
反対に、
一番楽しかったのが、
製版課の研修でした。
印刷用のはんこ(刷版)に焼き込むイメージを
フィルム化するプロセスです。
高度な職人技と豊富な経験が必要な、
いわゆる当時の花形と呼べる部署です。
フォトショップ等のソフトがあれば、
簡単に出来てしまう補正作業なども、
レタッチャーと呼ばれる職人の手作業で根気よく行われていました。
仕上げた製版フィルムを使っての試し刷り(色校正)プロセスが、
私の一番のお気に入り。
シアン、マゼンタ、イエロー、ブラック、の各インキを、
1色ずつ重ねていき、
最後に、フルカラーの印刷物が出現します。
当時の私は、
その光景を、「魔法」の様だと感じ、飽きることもなく見ていました。
プリンターで色校正を出力する時代が来るなんて、
当時は夢にも思いませんでした。
印刷業は、便利に、
そして簡単になりました。
そう、
職人が不要になるくらいに。
その分、
印刷業の可能性も信じられないくらい広がりました。
アーツの可能性を広げるべく、
今の時代の「魔法」を模索しているところです。